hamo-laboでは愛媛大学 社会共創学部の羽鳥 剛史准教授らと「社会協働の促進に向けた音楽ハーモニーを用いたワークショップの効果検証」というテーマで共同研究・実験を進めています。この度「協働の場づくりに向けたハーモニー共同行為の効果検証」が土木学会論文集に掲載されました。

本研究は土木学会論文集 D3(土木 計画学),Vol.78, No.6, pp. II_460-II_469, 2022. に掲載されています。

共同研究者:羽鳥 剛史(愛媛大学社会共創学部)、志田 尚人(オノコボデザイン合同会社)、片岡 由香(愛媛大学社会共創学部)、大西 正光(京都大学防災研究所)、杉田 篤史(株式会社hamo-labo) 

▼電子ジャーナルプラットフォーム J-STAGE

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejipm/78/6/78_II_460/_article/-char/ja

■研究目的

・アカペラハーモニーが人に与える影響を生理面・心理面から定量的に評価するとともに、組織における人間関係や協働への効果を検証し、社会協働の促進に向けた音楽ハーモニーを用いたワークショップの効果を検証する。


【研究背景】

・地域計画やまちづくりにおいて、住民協働の場づくりが求められている。
・よりよい協働のためには、明確な意見を持つ「自立」、周りの意見を受け入れる「協調」の両立が重要。
・しかし、意見が出ない、意見が否定・拒否される、互いの枠組みが衝突する、等の問題が生じる。

 参加者がそれぞれの立場や考えに関係なく、全員が協働する意識を持つことが必要

・WSなどではアイスブレイクやチーム・ビルディング・エクササイズといったアクティビティが行われており、それにより参加者固有の枠組みをオープンにすることと他の人がその枠組みを受け入れることの促進をはかる。

 まちづくりや地域計画においてはより複雑な利害関係者が集うため、それら「自立」「協調」に作用する要素を持つツールを応用することで、協働促進に貢献すると考えられる

・本研究では、実際に行われているアカペラハーモニーを用いたWSに着目した。

・WS参加者の感想として、「皆で気持ちを合わせることが大切だと感じた」、「普段仕事の時は気を遣ってあまり話せないが、会話がしやすいと感じた」

 音楽ハーモニーを用いたワークショップの協働への効果が示唆されるが、定量的な検証が必要

 人間に心地よい印象を与え、さらに、「自ら音を発し、周囲の違う音を受け入れなければならない」というアカペラハーモニーの性質により、協働を促す可能性がある


■実験参加者

本実験は、愛媛大学生を対象にして、2019年11月20日〜12月2日の期間、全6回(各回18名ずつ合計104名、男性60.6%、女性39.4%)実施した。この実験は、音楽に関する専門的知識や経験を問わないため、学内で広く参加を呼びかけた。

■実験の流れ

事前アンケート→ハーモニー歌唱→事後アンケート→ヘリウムリングゲーム

■ヘリウムリングゲーム

・数人で1つのフラフープを囲むように立ち、それぞれの人差し指にフラフープをかけ、そのまま下がっていき、床にフラフープを置くことを目指すゲーム。フラフープから指が離れてしまうとスタート地点に戻らなければならない。離れた場合は自己申告してもらう。自らの失敗が、チームの進行に影響を及ぼすため、指が離れたことを黙認することもできる。
〈ヘリウムリングゲームにおける心理的安全〉
・心理的安全性:Amy C. Edmondson が1999年に提唱した概念。
・チームにおいて、他のメンバーが自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信をもっている状態であり、チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態。

 6名に心理的安全が作用すれば、自己申告(失敗を認め伝える)回数が増える可能性がある
▶率直に話すことが推奨される  ▶失敗が緩和される

実験条件

パートごとに集まって歌う「パート別歌唱(合唱形態)」
複数パートが混ざって歌う「混合歌唱(アカペラ形態)」
とを比較。

・本研究では、同じパートで分かれたパート別歌唱(合唱形態)と、パートをミックスし配置した混合歌唱(アカペラ形態)とを比較。
・それぞれ6人が同じパートを担当し、上・中・下のコーラス3パートで歌唱する。

実験結果

  

A.相手の印象について

パート別歌唱(合唱形態)は同グループの人に対しての印象が上がる。

2つの形態における同グループの人に対する印象の変化パターンは異なっており、「パート別歌唱(合唱形態)」の方が「混合歌唱(アカペラ形態)」よりも歌唱によって同グループ内の相手の印象評価が上昇する

B.歌唱後の感想

「難しさ」は混合歌唱(アカペラ形態)での歌唱が有意に高い。

パート別歌唱(周囲に同じ音が存在)→「ハモっている」「気持ち良い」
混合歌唱(周囲に異なる音が存在) →「難しい」

C.社会的価値性向

混合歌唱(アカペラ形態)での歌唱により利他的思考が増加する傾向にある。

混合歌唱(アカペラ形態)の性質により、混合歌唱(アカペラ形態)に利他的思考を増加させる作用があることが示唆される

D.ヘリウムリングゲームの失敗回数についての考察

失敗は自己申告制。心理的安全が作用すれば、自己申告(失敗を認め伝える回数)が増える可能性がある。

本実験では6人1組で輪になり中心を向く。全員の両手の人差し指(指の側面)の第一関節上にフラフープを乗せ、目線の高さで待機する。スタートの合図と共にフラフープを乗せたままの状態で手を下に下ろしていき、全員の手が地面に付くとゴールとなる。ゴール後は再スタートでき、制限時間5分以内に何回ゴールできるかをチーム対抗で競う。ゲーム進行中、一人でもフラフープから指が離れてしまった場合、スタート地点に戻り再スタートしなければならない。

全員がゴールという目標に向けてゲームが進行していく中、自分の手がフラフープから離れてしまった場合、混合歌唱(アカペラ形態)の性質により、心理的安全の「失敗の緩和」が示され、自己申告回数(失敗回数)が多くなることが示唆される


考察

①混合歌唱の利他的思考者数増加について

・パート別歌唱(合唱形態)は、周囲に同じ音が存在し、聞こえてくる音に合わせるだけで良い(自らの音の調整のみ)。
・一方、混合歌唱(アカペラ形態)は、周囲に別パートの音が混在するため、異なる音(他者)を意識せざるを得ない状況で、他者との調整を行う。

→異なる音が混在するという混合歌唱(アカペラ形態)の性質が、他者への意識を促し、利他的思考者を増加させることに寄与した可能性が示唆される。

②歌唱形態と失敗の関連について

・パート別歌唱(合唱形態)は、「ハモっている」「気持ち良い」と感じ、同グループの人の印象が上がるという結果から、周囲と同じ音を出そうという同調傾向を強める副次的効果にもつながり得る。(同調傾向を強め、逸脱を認めない)

・一方、混合歌唱(アカペラ形態)は、「難しい」と感じ、利他的思考者が増加するという結果から、音を合わせるだけでなく、他者との音の違いや“うまく調整できないこと”を認める意識になる(失敗に寛容になる)

→異なる音が混在するという混合歌唱(アカペラ形態)の性質が、失敗に寛容になる雰囲気をつくることに寄与した可能性が示唆される

ハーモニー共同行為が協働の場づくりに及ぼす効果を検証したが、そうしたハーモニーの意義は、土木計画学の分野だけに限らず、現代社会が抱えるあらゆる「対立・分断」の問題を乗り越える上でも示唆するところが少なくないと考えられる。
すなわち、本実験を通して明らかとなった、お互いに異なるパートを歌唱し合うことの効果は、お互いの意見や立場の相違を価値として認め合い、そこから対話が促される可能性を示唆するものと捉えられる。
この点を踏まえれば、本研究が着目するハーモニーの視点からコミュニケーションを捉える「ハモニケーション」の試みは、人々の間の“違い”に価値を見出し、現代社会のあらゆる場面で起こる「対立・分断」を「調和」へと昇華させていく1つの契機になり得るものと期待される。


hamo-laboでは引き続き、“ハモり”が心理や集団にもたらす効果について、組織における人間関係や協働への効果を検証し、研究内容を社会活動の場に活かすことで社会協働の促進に貢献していきたいと考えています。